Kaneda Mio


そこにしか無いもの

冬のある日、嵐だった。
春のような匂いの風だった。
その時にもまた、思ったのだった。
風の強さが変わるとここはこんなにも別の場所になる。
見るものも。聞くものも。
学校が始まる頃を思い出して、なかなか眠れなかった。

耳に力を入れると聞こえなくなる。
雑音も。虚飾も。
でも、ただそれだけのことなのだ。
力をゆるめればまた聞こえてくる。
真実も。嘘も。

北風はわるもんで、太陽はいいもんなのか?
そうではない。
太陽は、ひとかけらだけ優しさが多かった。
旅人の気持ちを見ていた。
北風も悪いやつじゃない。
多くの人がいるから、多くの意味がある。
太陽であることは難しい。

個展テキストより 1998年 金田実生


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