笑って眠る
このところの、つよい風や暑いほどの日、
この季節とは思えぬ日、
夕方を歩いて、私の大切な人のことを想っていた。
私は、あの人のように過ごせているだろうか。
暖まったり、揺さぶられたり、大きなうねりのある陽気。
定まらない外の様子に気持ちも鎮まらない。
うねりは暮らしにもあらわれる。
暖められ、揺さぶられ、立っていられないことがある。
すっかり忘れて笑うこともできる。
受け止めることができて、やり過ごせないときがある。
晴れの穏やかは優しい。
やわらかく丸い空気は慎みを誘ってくれる。
私はあの人のようにできているのだろうか。
夕方、表に桜の花が舞う。散り始めている。
グレーがかって、少しかすんだ花びら。
まだ敷き詰められるほどではない。
桜色を横に犬と歩く。
わかってはいても、散り始めは寂寥の想いが拭えない。
うつくしさが終わるには短かすぎて、なによりもまた、
今という自分の時間に戻らなければならない。
足下の桜色はまだ生き生きと、落ちてもなおその姿は愛らしい。
枝には、不思議と花の色に響くやわらかな黄緑があり、
終わりではなく緑が始まるのだとまた思う。
春には暑い日。汗ばむ陽気。
私の老犬は外の暑さにたまりかね、足を伸ばして寝そべった。
微笑みながら眠り始める。
暑くて、風のつよい暮らし。始まるものもある。
今日も笑って眠る。